感想:ハイスクールオーラバスターシリーズ『白月の挽歌』若木未生
1989年から書かれている、こちらの超ロングスパンなタイトル。

従兄弟・希沙良との間柄

白月の挽歌: ハイスクール・オーラバスター・リファインド the confessor (TOKUMA NOVELS ハイスクール・オーラバスター・リファインド)
- 作者: 若木未生
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2015/09/08
- メディア: 新書
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「オメガの空想」「天の聖痕」に続く、里見十九郎編の最終巻となっています。
これまでに(要するに30年近く)描かれてきた十九郎という人物の面倒くささ、エゴの強さ、優先順位、本音、狙い、その優しさの正体がようやく少しだけ分かるような。
そんなタイトルです。
幻将・皓との…
まずは皓主との関係の終わりについて。
皓とは、ハイスクール・オーラバスター2巻「セイレーンの聖母」からの付き合い。因縁の敵、です。
彼女との出会いは、相棒・希沙良を少々傷つけられたこと。それが理由で、東京湾で一対一で闘ったわけですが、その時に互いを「面白い」と思うようになるように。
何がどう面白いのか、端からみれば全くもって分からなかったわけで。敵にも関わらずストーリーごとに深まっていく、その互いへの信頼の正体は何なのか、と思っていたのですが。
今回の最新刊において、それは「互いに自らの役割をわきまえすぎている」ということと表されています。
自分の感情とかエゴとか、あるようで。
それをも全て内包して、越えて、全うする。
そして、最後に。
皓は、愛を込めながら、しかし強くなるための血を手に入れるキスを。
十九郎は、相手の愛を知りながら、忍に討たれるという願いを叶えるためのキスを。
望みとか関係ってたぶん本当に複雑で。
でもきっと互いに後悔していない場面だったのではないでしょうか。
互いに惹かれ合うのは、上部だけではない互いの望みをちゃんとしってのことだったから。
同じ血肉として混ざりあえて、よかったと思います。
【2016/2 追加】
もしかすると皓は、そこまで見越してこの場面へ進んでいったのではないか。妖の者としての役割を重々承知した上で、十九郎を産み直すことも自分の役割だと見なしていたのかと。恋であり、愛であり、母性。皓は深いなあ。
従兄弟・希沙良との間柄
次は幼少から絆を深めてきた従兄弟との関係の変化について。
相反する術力を持つ二人は、親戚として付き合ってきたわけですが、その仲は睦まじすぎて。ほぼ毎日連絡をとるような、恋人か!という関係だったのです。
そうですね、「星を堕すもの」までは。
元々希沙良は生まれと同時に母親をなくし、母殺しとして親類から責められてきたため、人を信じることが出来ないような、捨てられることへの怯えがあります。その中で、十九郎は特別な存在。自分を認めてくれて、絶対に捨てることはないといいつづけてくれる唯一の人物。
それが、実は作為的なものだったのだと判明します。十九郎は忍との共謀のため、希沙良を手懐けていただけなのだということ。これ以上ない裏切り。けれども、既に自分の血肉になってしまって、剥がそうと思っても離れない。どうすればいいのか。
その一つの収束が、今回の最新刊です。
これまで直接的には描かれていなかった、十九郎の一番の願いは、忍のための唯一の奉仕者となること。
絶対的位置に君臨する、手の届きようのない存在に必要とされることで、自らの誇りを煌めかせること。
希沙良ですらその道具であり、そのエゴのためにはどんな自己犠牲も惜しまない。
無理難題なスケジュールだってこなすし、命だって捨てても構わない。
しかし、徹底しているようでいて、他の誰かを気にかけてしまう性も持ち合わせています。
だからこそ、
「行け」
と言われるのではなく、
「俺が走りたいから走る」
「したいからそうする」
と言えるように成長した希沙良。
そんな懐の大きい彼に、十九郎は救われてしまったのです。でもそれも、きっと十九郎自身の罪と愛情の帰結なのだと、思わされます。希沙良をいかし続けてきたのは、結局十九郎だったのですから。
十九郎をとりまく「健全な」人達
最後に、十九郎が見くびっているであろう、人達です。
具体的に言うと、西城敦、ハネ、一真、そしてもっといるはず。
彼は自分と釣り合わない、または忍に比べて低いため眼中に入りづらい、というような感触を抱いていそうですが、彼は本当にそういう人達にこそ救われているのだと最新刊では思わされます。
しかし、なぜそういう健やかな人間と縁がきちんと出来るのか。というと、やはり十九郎も少なからず健やかさを秘めているからなのでしょう。
そこから、目を背けないでほしいと個人的には思います。狂気と人間らしさのバランス。強がったって凡人なんだよ、いい意味で。
古武道でも習って、心身を整えて、胸板厚くなってたくましくなったら。
最終的には人格者として、人々を救える人だと思います。
今まで切り捨ててきた人間関係、些末だとしてきた感情、心地よさを味わってほしい。
いつの間にか十九郎の年齢を追い抜かした私には、そんな風に、親のように思えたのでした。
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というわけで、感想はおわります。
3回に分けて更新をしたら、それぞれスタンスが微妙に違うという。笑
それもまた一興。
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